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ここは福本作品「アカギ」の二次創作ブログです。 女性向け表現が苦手な方は閲覧をご遠慮ください 。 また、原作者様ならびに関係者様とは一切関係ありません。
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Posted by hicomaro - 2008.05.06,Tue

南郷さんとしげる(13)の小話です。

*「【文】弁当に緑はあるか」の後日の話。
自分の影を確認するように夜歩くしげると対極にいる南郷さん。




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前髪が目に入るせいか、うつむきがちに始終目をこすっている。
白目の部分が赤く充血して痛々しく、さらにその白髪と相まって一種異様な容貌。
窓からの夕日に逆光になった姿が、浮世離れして見えた。

 

 

 

 

弁当を作ってくれとせがまれた。


なかなか可愛いところもあるじゃないかと思いながら、まだ寝ているアカギと、
あり合わせのものを詰めた弁当箱を置いて仕事に出かけたあの日を最後に、
アカギはぱたりと姿を見せなくなった。


もうここへは来ないのか、それともどこかで行き倒れているんじゃないか…と心配していた矢先、
アカギは何事もなかったかのようにカラの弁当箱を片手に帰ってきて「やぁ、南郷さん」と言った。


俺は馬鹿みたいに口をパクパクさせて、胸が詰まり、結局言いたいことのひとつも言えず、
埃だらけのアカギの小さな頭を乱暴に撫でて「腹へってないか」といつものように聞いた。


「南郷さん、弁当うまかったよ」

「……そ、うか」


今までどこで何をしていたのか、ちゃんと食っていたのか、聞きたいことは山ほどあったのに、
いざアカギを前にすると何も聞けなかった。
こうして無事な姿を見せてくれた、それだけでもういい。
それに、アカギから放たれる真っ暗な闇の残り香のようなものが俺の口を閉ざさせた。


顔を洗い一息ついたアカギは、つい先日までよくしていたように窓際の壁に背を預けてぼんやりしている。

軽くなった弁当箱をあけてみると、中はきれいに洗ってあった。
アカギの嫌いそうな物は入れなかったから、たぶん残さず食べたんだろうと思う。


「…南郷さん、鋏、貸してくれない?」


見ると、伸びた前髪が目に入るせいか、うつむきがちに始終目をこすっている。
白目の部分が真っ赤に充血して痛々しく、さらにその白髪と相まって一種異様な容貌。
窓からの夕日に逆光になった姿が、浮世離れして見えた。

 

――――ああ鬼の仔だ

 

…いや、ちがう。
アカギだ。ただのアカギだ!

一瞬浮かんだ思いを打ち消すように、思い切り蛇口をひねる。
冷たい水で濡らしたタオルをアカギに渡し、目にあてるように言う。


「前髪が目に入って鬱陶しいんだ」

「…あ、ああ、切ってやるから、ちょっと目ぇ冷やしてろ。下に新聞紙敷くから…」

「南郷さんが?…うまく切れる?」


アカギが、ちらと俺を見上げて、からかうようにちょっと笑った。
そのことに俺は心底ホッとする。
やっぱりアカギだ。

「馬鹿にすんな、これでも手先は器用なほうなんだ」

手櫛で埃まみれの白髪を少しずつ梳いてやり、
独特の手触りのそれを慎重に切り落としていく。


「もうすぐ銭湯あくから、切り終わったら行こう」

「弁当に入れた金平、ちょっと塩辛くなかったか?」

「お前が来ない間に、隣の部屋の人が引っ越しちまって、まだ空き部屋なんだ」


他愛のないおしゃべりに混じって、カサカサと白い束が落ちていく。
なにかしゃべっていないと、なんとなく落ち着かなかった。
ふと、白のなかに赤黒い瘡蓋が目に付く。


「お、おい!頭ケガしたのか?」

「…ああ、だいぶ前にね。なんだ、まだ痕残ってるんだ?」

「……」


アカギはなんでもないことのように言う。
もうすっかり傷は塞がっていて瘡蓋も小さくなっているが、これはそうとう出血したんじゃないか。
ただでさえ頭は出血しやすいと聞いたことがある。


「クク、別にたいした傷じゃないよ…それより南郷さん、大丈夫かい?
さっきから鋏が耳に当たって、俺ヒヤヒヤしてんだ」

「…お前が動くからだろ!いいからじっとしてろっ」


俺の心配も知らないで、いつもこうやってスルスルとすり抜けていく。
掴み所のないアカギに少し腹が立つ。
でも薄い肩を揺らしてクツクツ笑うアカギは、いつものアカギだ。
俺の知るアカギだ。

 

「…南郷さん、けっこう上手だね」

自信満々に鏡を見せると、アカギは珍しく目を丸くした。
こういう表情を見ると、ああ子供だな、と思う。

「なあ、なかなかうまくできたろう!まるでいいとこの坊ちゃんみたいだぞ!」

「………」

褒められたことに嬉しくなって、きれいになった頭をくしゃくしゃに撫でると、
鏡越しにアカギに冷めた視線を送られてしまった。

それでも、物珍しそうに鏡にうつるさっぱりした頭をじぃっと見ているところをみると、
どうやら気に入ってもらえたようだ。


「伸びたら、また切ってやるから。な」

うつむいて肩に落ちた髪を払うアカギを背に、風呂に行く準備をする。
ふたりぶんの支度をするのはとても久しぶりのような気がして、
アカギが無事にここにいることを再確認して嬉しくなった。


「……風呂、行こうか。もうあいた頃でしょ」

「ああ。そうだ、帰りにラーメンでも食うか」

「……ううん。今日は、いいよ」


足取り軽く歩く俺の後ろをのそのそとついてくるアカギは、少し逡巡したあとかぶりをふった。


「…あの弁当に入ってたような、甘い玉子焼きが食いたい」

「あれ、うまかったから」

 

そう言って猫のように細めたアカギの目を見ると、もうあの赤みは消えていた。

 

 

 

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このブログ内では南郷さんがしげる(13)をこども扱いするのがデフォです。さらに、一緒に何か食べてたり食べさせてたり、食べ物に関わる話が多いかもしれません。絵も描いたりします。基本的におっさんとこどもしかいないブログです。

南郷さんはおかあさん。
しげるは、なんとなく南郷さんにだけはこども扱いされたくないこども。

傾向は、思春期しげる(13)→南郷さん。
たぶん恋愛未満のプラトニックです。


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