南郷さんとしげる(13)の小話です。
*しげるの欠落した何かにとまどう南郷さん
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銭湯で顔馴染みらしいおっさんにつかまって話し込んでいる南郷さんを
外で洗面器を地面に置いてぼんやり座って待っていたら
酔っ払ったオヤジが10円投げて寄越してどっかに消えた
負具者の物乞いだと思われたらしい
「お前…それで、その金受け取ったのか?」
物乞いと思われた、というのがなんとなくおもしろくて、クツクツ笑いながら事の顛末を話したら、
急に南郷さんが怒ったような悲しいような、どちらともつかない顔になった。
「…なに?…欲しいならあげ」
「いらねえよ!」
全部言い終わらないうちに大声で遮られ、少し面食らう。
なんで怒ってるのかわからないけど、南郷さんは怒っている。
この10円が原因なのはなんとなくわかる。
「…受け取るも何も、いきなり投げて寄越したんだ。
それとも今からおっさん追いかけて返すかい?」
そう言うと南郷さんは本気にしたらしく、その酔っ払いどっち行った?と返してきた。
いまさら追いかけて探すなんてまっぴらごめんだ。
「ねぇ、もういいじゃない、湯冷めしちまう。
俺、ずっと外で待ってたから冷えてきた」
「…だから中で一緒にいろって言ったじゃねえか」
南郷さんが話し込んでいたおっさんは、あの薬局のオヤジだ。
こないだ風邪薬を買いに行った時に、俺の頭を見て顔をしかめたオヤジ。
そんなことには慣れてるものの、南郷さんが一緒にいては話は別だ。
そういう目に、慣れてないだろうから。
ぶつぶつ言いながら歩き出した南郷さんと肩を並べる。
ちょうどゴミ捨て場が目に付いて、さっきの10円を捨てた。
チャリンという小さな音に一瞬遅れて、「おい!」という南郷さんの声が重なった。
「バカッ!何捨ててんだ、金だろうが!」
今日の南郷さんは怒ってばかりだ。
俺には原因がいまいちわからないから、どうしていいか正直わからない。
「なに怒ってんのさ?」
「……」
南郷さんは何か言いたそうなそぶりを見せて、結局何も言わなかった。
なにかあきらめたようにノロノロと10円玉を拾い上げて、歩き出す。
俺も少し遅れて歩き出す。
「…ねぇ、どこ行くの」
「…すぐそこだ」
アパートに向かう道から逸れて、細い小道に入っていく。
切れそうな電灯にうっすら浮かび上がる小さな神社があった。
蹴ったら壊れそうなボロボロの賽銭箱に、南郷さんがさっきの10円を入れる。
「へえ、南郷さん意外と信心深いんだね」
俺がたいして感慨もなくつぶやくと、うなだれていた南郷さんが顔をあげた。
「アカギ」
「…なに?」
しばらく逡巡して、南郷さんは言葉を選ぶように口を開いた。
「金を捨てるなんてだめだぞ…あぶく銭だろうと、なんだろうと…」
しばらく黙っていたかと思えば、そんなことを言い出す。
金を捨てるのはだめ?
「……あの酔っ払いは投げつけてきたぜ?」
「…そ、それは…そういう奴もいるだろうが…でもだめだ!」
俺の返しに困ったのか、南郷さんはモゴモゴと同じことを繰り返した。
それにしても、なんだ、俺が金を捨てたことに怒っていたのか。
時々南郷さんはよくわからない。
「ふうん…」
俺のわかったようなわからないような返事に南郷さんは、
まだ何か言いたそうな顔をしていたけど。
かわりに大きな手で俺の頭をひとなでして、帰るか、と言った。
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「【絵】まだかな」 「【絵】続・まだかな」 よりちょっとした小話でした
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このブログ内では南郷さんがしげる(13)をこども扱いするのがデフォです。さらに、一緒に何か食べてたり食べさせてたり、食べ物に関わる話が多いかもしれません。絵も描いたりします。基本的におっさんとこどもしかいないブログです。
南郷さんはおかあさん。
しげるは、なんとなく南郷さんにだけはこども扱いされたくないこども。
傾向は、思春期しげる(13)→南郷さん。
たぶん恋愛未満のプラトニックです。
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